DrIWAの日記

医療や地域や人や趣味について。日々わくわくすることを探しています。日々の記録として書いていきます。

第一弾、石内医院

医療機関訪問の記念すべき第一弾は、延岡市の石内医院です!私の出身の島からも近く、島民も多く通院している医療機関です。非常に学びの多い1週間でした。

 

診察室の佇まいから感じる患者さんへの優しさ

患者さんやスタッフにはもちろんのこと、急に飛び込んだ私にも本当に優しく対応して頂きました。その優しさは診察室に入った瞬間から感じます。まず目にとまったのが診察机に置いてあるダーモスコープ、鏡検用の顕微鏡、リニア・セクタ・コンベックス・経肛門プローブまで揃ったエコーです。忙しい外来で鏡検やエコーを扱うことはストレスとなることも多く、医師一人の外来で行えない病院も多いのではないかと思います。実際に診療でも多用されており、患者さんへの真摯な対応・優しさを感じました。

 

患者さんの幅広さ

院長は泌尿器科専門医ですが、内科・泌尿器科だけでなく皮膚疾患や認知症、漢方診療についても他院から紹介を受けており、コロナ流行のこのご時世であっても患者数が非常に多かったです。診療内容はまさにGPといった印象でした。どのような経緯でこのような幅広い診療をされるようになったのか気になり伺ったところ、

「ここに開業すると決めた時に内科皮膚科を勉強し直し、また実際に開業して来院される患者さんを診療をしていく中で必要と感じた認知症診療や漢方治療を追加で勉強していきました」と言われていました。

内科・皮膚科については武蔵野赤十字病院にレジデントとして入りなおし、単身泊まり込みで勉強をされたとのこと。認知症がすすみ内服管理ができなくなっていく様子を目の当たりにして認知症診療を勉強しなおしたり、また○○科とは分別できないような患者さんのために漢方専門医までとられたり。

地域の医療事情や患者さんのニーズに自身の診療をフィットさせていく姿はまさに私の目指すべきところだと感じました。

 

また延岡・県北地域が抱える医療の問題も見えたところがあるので、こちらも改めてまとめたいと思います。

 

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研修期間中にwalk inで急性大動脈解離の患者さんが受診され、私も冷や汗をかきました。

CTのない診療所から、エコー所見だけで患者さんを総合病院に搬送するのはいつになっても胃が痛みます。二つ返事で引き受けてくれた県立延岡病院には感謝しかなく、地域の最後の砦としての心強さを感じました。

 

石内院長、スタッフの皆様には大変お世話になりました。ありがとうございました。

 

エレクティブ研修 〜延岡市での地域医療〜

1年間の上五島病院勤務を終え、地元である宮崎県延岡市に引越しました。次は2021年6月から宮崎県立延岡病院・救命救急科での勤務となります。

というお話はいろいろな方にしていますが、毎回のように「4月5月は何してるの?」という質問を受けます。本来であればオーストラリアへ渡り、本場のGP・総合診療のスキルやシステムを目に焼き付けているところだったのですが、ご存じの通り世界的なCOVID-19の流行により延期となりました。

すぐに地元で勤務するという選択肢もあったのですが、もっと広い視野から宮崎県北の医療圏を見たいと思いまして、現在は延岡市内を中心に病院や診療所など医療機関を巡回してまわり、地域の医療状況を見せてもらっています。

 

 

ひとつのへき地

「ひとつのへき地を見たらそれはひとつのへき地を見たに過ぎない。これには真実と危険が含まれている。」

これはゲネプロ代表である齋藤学先生の講演会を聞いたときに、オーストラリアのへき地医療長官であったポール・ウォーリー氏の言葉として紹介されたもので、とても印象に残っています。私は上五島ゲネプロというとても素晴らしい地域医療を経験させてもらいました。ただ、いえるのはそれは上五島やオーストラリアという風土やニーズにフィットした医療であるということです。

この一年で地域医療の素晴らしい点、改善すべき点を学びましたが、それはあくまでその土地におけるものでしかありません。この2か月間、短い期間ではありますが、これから私がフィールドとする宮崎県延岡市に自分の経験の何が還元でき、何を修正していかなければいけないのか、しっかりと見極めていこうと思います。

 

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延岡市や県北地区で、

『ここの病院・施設は見ておいた方がいい』

『是非うち(医療機関)を見に来なさい』

という所があれば教えてください。

 

運営的によろしければ、診療までさせて頂きます。

・診察対象: 0歳〜120歳まで。

・診察費用: もちろん不要です。

 

施設見学と施設説明のお時間を頂けると嬉しいです。

 

医師と患者の心地よい距離感

大切な1枚の写真

五島を発つ前日、亡くなられた患者さんに線香をあげてご家族と撮った写真です。仏壇の前で笑顔で肩を組んで写真なんて、不謹慎と思われるかもしれません。少なくとも1年前の私ならそう思ったはずです。

 

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患者さんとの出会い

この患者さんは現在の医療では確立した治療法のない稀な難病でした。入院期間中はコロナ禍で面会制限中でしたが、規則が許す範囲で毎日のようにご本人、ご家族と時間をかけて話し合いを行いました。ご家族も医療者もみんなで涙しながら行った話し合いや療養の日々は、今でもすべてを鮮明に思い出すことができます。一人の患者さんの人生についてここまで多くの職種や家族が関わり、深く議論をした経験は記憶にありませんでした。

その結果、慣れ親しんだ自宅で最期を迎える事をご本人、ご家族は希望されました。希望を叶えるために医師だけでなく多くの職種が一丸となり動きます。大変な日々でしたが、何より多くの葛藤や不安を抱えながらご家族が献身的にサポートされる姿は私達医療者の胸をうち、思いと行動を後押ししてくれました。

そして奇跡のように、自宅で大切な大切なご家族と一緒にその時を迎えることができました。

 

 

亡くなったその後の繋がり

自宅でお看取りをしてしばらく経ったとき、島内のスーパーで家族と再会しました。

「先生久しぶり!四十九日が過ぎて落ち着きましたよ。よかったらうちに来てください!」

過去の私なら丁重にお断りしていたかもしれませんが、このときのご家族と私の繋がりは、同じ目標に向かい多くの時間を共有し気心のしれた『戦友』でした。これまでに感じたことがなかった、お互いを信頼しあえている妙な実感がありました。もちろん誘いを断る理由はありません。

「はい、是非行かせてください。」

 

ご家族のご好意で妻と子供たちも一緒に訪問させて頂きました。

話をしていると、その当時は気づけなかったことを、「実はあのとき家族はこう感じてた」「あのときはもっとこうして欲しかった」「看護師さんのあの言葉がうれしかった」などと教えてくれました。患者さんやご家族の貴重な療養経験から私たちが教わることはとても多いと感じます。

家族でお線香をあげて、仏前で一緒にご飯を食べ、お酒を交わし、療養中のときのようにみんなで何度も涙を流しながら故人を思う時間を過ごしました(なぜか診療とは関係ない妻も号泣していましたが)。

医師と患者は一定の距離を保たないといけないという意見もありますが、お互いが心地よい距離感で良いのだと思います。お互いを分かり合う過程が一番大切な事なのだと、今回教えてもらった気がします。

 

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気がつけばこどもたちは仏壇の前で寝てしまっていました。

きっと仏様も微笑んでくれてることでしょう。

 

今年も五島にはきれいな桜が咲きます。

18年ぶり10回目の・・・

五島も桜が満開となりました。海からの風はまだ少し冷たいですが、いよいよ春です。

この日は島を離れる同僚の先生のお見送りに家族で港まで。紙テープと汽笛の別れのシーンは胸にぐっとくるものがあります。

 

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私が生まれ育った宮崎県の離島でも、この時期は転勤になる教職員や警察官を見送るため、紙テープを使っていました。中学3年の時が最後だったので、甲子園風に言えば18年ぶりの10回目くらいの参加です。小中学生の頃にお世話になった先生の顔や、毎年同級生と汽笛に合わせて海に飛び込んでいた楽しい記憶が思い出されました。

この別れの瞬間に港に流れる独特の空気感は何とも言えません。島で暮らす人たちの人情がよく表れ、送る人、送られる人の涙や笑顔が至るところで溢れています。

 

風土という言葉

そんな光景を見ていると、五島に来て間もない頃、応援で通ってた診療所の事務の方とした会話が頭をよぎります。診療所からの帰りの車中で風土という言葉について教えてくれました。

「風土は風と土です。風は病院で言えば島外からきてくれる医師や看護師、地域ではUターン・Iターンの人達。土は私たち地元民です。地元民は芽が出て花や実が育つ様なしっかりと肥えた土でないといけない。島外から来る人は新しい種を運んだり、風で土をかき混ぜて土を新しく保たないといけない。私達は風に飛ばされていくようなヤワな土ではいけない。先生達は何も萎縮せずにしっかり風を起こしてくれればいいんです。」

 

1年たち、こうやって上五島の良い風土が保たれているのだと、妙に納得できた1日でした。

きっと今年も来年も、上五島の肥えた土に、きれいな桜が咲くのだと思います。

 

残りわずかとなった離島生活。RGPJ修了試験と倫理委員会

RGPJ修了試験

「本物のへき地医療を経験したい!」という気持ちだけ抱えて、ゲネプロに飛び込んだのが去年の4月。信じられないほど早く1年の月日が流れました。

自分のやりたい医療は何かと探していた私にとって、日本や世界の地域医療の先端を肌で感じる事ができるこのプログラムはとても魅力的なものでした。

毎週水曜に受けるウェビナーも2月で終わり、3月の修了試験もなんとかクリア。

本来であれば、これから『家族みんなで、いざオーストラリアGP修行へ!』となるところでしたが、新型コロナの流行で泣く泣く延期となりました。こればかりは如何ともなりませんので、めげる事なく、それにかわるチャレンジをどんどんやっていきたいと思っています。

 

 

五島での在宅医療研究

離島という環境で何か研究したいと思っていたもののなかなか腰があがらず。年明けにようやく動き出し、滞在期間が残り2週間程度となったタイミングで、なんとか島内外の多くの方の協力を得て倫理委員会をパスしました。

 

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医療者目線ではなく、患者と家族目線から在宅医療の質をなんとか評価できないものか。上五島から発信できる未来を夢見る日々です。

 

日一日と旅立ちの日が近づきますが、やるべき事が山積みです。価値ある一日を過ごせる事に感謝しながら残りの離島生活を満喫しています。

 

五島の空に感じる『万里一空』

ヘリコプターで応援医師を運ぶ仕組み

上五島病院には、週に数回、本土から診療応援の医師がヘリコプターや船を使ってやってきます。皮膚科、耳鼻科、眼科、泌尿器科、精神科などの外来診療、処置を行うためです。

ドクターヘリや防災ヘリは救急患者への早期医療介入や転院搬送、災害対応などで使用するものと勝手に思い込んでいた私には新鮮な光景でした。

離島や僻地の医師数は少ないです。もちろん全ての診療科の医師がいるわけではありません。

そのため僻地にいる医師は出来るだけ広い診療範囲をカバーしようとしますが、やはり特殊な疾患や専門的な処置を要する場合にも遭遇します。

患者さんが困っているが、何とか次の診療応援日まで持ち堪えなければならない、、、そんな状況を私もこの1年で度々経験しました。

なんとか患者さんと踏ん張り、ようやく迎えた診療応援日。そんな日に限って天候が悪くヘリコプターや船が運航できない、ということは離島医療あるあるです。

 

 

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祈るように空を見上げてヘリを待つ。

この写真は、ある冬の日の夕方の空です。翌日に大切な診療応援を控えていましたが一日中続く吹雪に、もうダメかと思いながら空を見上げた時に雪雲の間から見えた、そんな特別な青空です。

救急医として働いているときは、ドクターヘリやドクターカーで患者の元へ向かう側でした。

「祈るように空を見上げて、ヘリを待つ」

たった1年の経験で離島医療の苦労を語るのは恐れ多いですが、今となってはその苦労を知らずにドクターヘリやドクターカーに乗っていた事を申し訳なく思ってしまいます。

患者さんのもとへ駆けつけながら見る空や景色は綺麗でしたが、離島で患者さんと耐えながら見上げる空もなかなか味わい深いものです。

離島で過ごす1年間は何物にも変えがたい時間でした。

 

 

五島の空に感じる『万里一空

万里一空:

どこまで行っても空は一つで、あらゆるものは一つの世界にとどまっていることを表し、現代では意味が広って「同じ一つの目標を定めて、努力を続ける」という心構えの意味で使われる四字熟語です。

昔見たドキュメンタリーか何かでプロ野球選手の桑田真澄が話していて知った言葉です。真似をして、それ以来私の座右の銘としています。

 

とりとめがなくなってしまいましたが、こんな五島の空を見て「万里一空」という言葉が胸に沁みました、というお話です。

 

冬来たりなば春遠からじ。

寒波襲来

雪の降らない土地で育った影響でしょうか。

大人になっても雪をみると童心に戻ります。

 

この日は訪問診療でしたが、積雪に備えて時間を前倒しての出発となりました。久しぶりの銀世界はテンションが上がるものです。マスク越しにも私のソワソワが伝わったのか、訪問看護師さんから、

 

「先生、嬉しそうだから写真撮りましょうか?」

と声をかけられました。

 

なるべく平静を装いながら、

「お願いします。」

と返しましたが、写真を見直してみて自分の浮き足立ち具合が恥ずかしくなりました。

『普段との違い』に敏感に気づく看護師はやはりプロフェッショナルだと感じます。

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医師、人間としてのスペシャリテ

この日の訪問診療ではいつもに増して、

「こんな中来てくれてありがとう」と患者さんやご家族が迎えてくれました。逆に私たち訪問スタッフの体調を気にかけてくれ申し訳ないくらいです。

診療後にご家族から、訪問時間が変わったから患者さんが慌てて片付けをしてましたと聞かされました。寒いといけないからとタオルや暖房器具を用意するよう指示されたことも笑いながら話してくれました。

患者さんからの心ある言葉や対応は、普段の診察室での挨拶や、診察室の整理などのあるべき姿を医療者に教えてくれます。

 

救命センターで働いていた時は、嵐のように押し寄せる急患や救急車のため余裕がなくなり、患者さんやスタッフに礼節を欠くこともありました。救急医を一旦離れて、こうして時間をかけて、視点をかえて診療をすることで見えるものが多くあります。

難しい事ではありますが診療科のスペシャリティはもちろんのこと、医師・人間としてのスペシャリティを深める意識や努力を忘れぬようにしたいものです。

 

 

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新型コロナの感染拡大に大寒波とネガティブなトーンで茶の間のニュースはすすみます。私はそう遠くない春と、必ず来る大回復の時代を楽しみに新年を過ごしていきます。