人は、『場所』に集まるのではなく『人』に集まる。
奈留島での最終日 ~私服で家庭訪問~
最後の日は白衣ではなく、私服で患者さん達のお家を回ってみました。
天気も良かったので自転車を借りて島を巡りながら。
島には集落が点在しており、走行距離約30 kmの家庭訪問です。
息子さんと2人暮らしのおばあちゃんのお宅での話です。
ガラガラっと玄関をあけて・・・(基本的に家に鍵はかかってません)
私
「こんにちはー、奈留病院の岩谷です!」
遠くから息子さんが
「今日は診察頼んどらんよー!」
私
「今日は診察じゃなくて遊びに来ましたー」
また遠くから息子さんが
「そうかそうか、今は手が離せんから婆さんの部屋まで勝手に上がってー!」
不思議と白衣を着ずに行う会話は、いつもよりお互い口数が多くなります。診察室や聴診器を持った往診では聞けなかった、患者さんの生活やこれまでの人生が垣間見えます。
しばらく談笑をしていると、おばさあさんが
「最後だから一緒に写真を撮ろう」と言ってくれました。
(許可を頂き掲載)
90年間、島で暮らす理由
一緒に撮った写真を見て、
「私も歳をとったねー。久しぶりに自分の顔を見たよ。90年も生きてるからねー。」
話の途中で台所の方から香ばしく干物が焼ける匂いがしてきます。あたかも故郷の島の昼下がりに自分がいるような錯覚に陥りながら、おばあさんの心地よい声も合わさり、至福の時は続きます。
「私は90年この島にいるけど、もちろん島も好きだけどそれが理由じゃないんですよ。住んでる人が良いからここを離れられないんです。先生はそんな人になってね。」
はっとさせられました。
診察するときは『認知症の検査しとかなきゃなー』と考えていた患者さんからの一言。
医師と患者という立場でしか話をしてなかったのに、私はその人の全てを知っているような気になっていたのかもしれません。私より60年近く人生を長く生きている大先輩からの言葉は胸に突き刺さります。
お土産に干物をもらい、心からのお礼を言いサイクリングを続けます。
訪問診療や外来でしか会わなかった患者さんたちと、短い時間ではありましたが一島民として話をすることができました。
ママチャリをこぎながら、禁煙を頑張っていると信じてた患者さんの喫煙現場を見つけてしまったりもしましたが、総じて非常にいい島巡りでした。
人は、『場所』に集まるのではなく『人』に集まる。
気づけば日も暮れて体力も底をつきました。
最後の晩餐は奈留島滞在中に非常にお世話になった近所の居酒屋です。
すると、頼んでもいないのに大量の刺身盛り合わせが…
「先生、2ヶ月お疲れ様でした!」
こういうことか。
こんなに優しくしてくれる人達がいるから、この場所を好きになる。
人は、『場所』に集まるのではなく『人』に集まる。
最近、納得させられた言葉です。
そういう者に私はなりたい。