DrIWAの日記

医療や地域や人や趣味について。日々わくわくすることを探しています。日々の記録として書いていきます。

医師と患者の心地よい距離感

大切な1枚の写真

五島を発つ前日、亡くなられた患者さんに線香をあげてご家族と撮った写真です。仏壇の前で笑顔で肩を組んで写真なんて、不謹慎と思われるかもしれません。少なくとも1年前の私ならそう思ったはずです。

 

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患者さんとの出会い

この患者さんは現在の医療では確立した治療法のない稀な難病でした。入院期間中はコロナ禍で面会制限中でしたが、規則が許す範囲で毎日のようにご本人、ご家族と時間をかけて話し合いを行いました。ご家族も医療者もみんなで涙しながら行った話し合いや療養の日々は、今でもすべてを鮮明に思い出すことができます。一人の患者さんの人生についてここまで多くの職種や家族が関わり、深く議論をした経験は記憶にありませんでした。

その結果、慣れ親しんだ自宅で最期を迎える事をご本人、ご家族は希望されました。希望を叶えるために医師だけでなく多くの職種が一丸となり動きます。大変な日々でしたが、何より多くの葛藤や不安を抱えながらご家族が献身的にサポートされる姿は私達医療者の胸をうち、思いと行動を後押ししてくれました。

そして奇跡のように、自宅で大切な大切なご家族と一緒にその時を迎えることができました。

 

 

亡くなったその後の繋がり

自宅でお看取りをしてしばらく経ったとき、島内のスーパーで家族と再会しました。

「先生久しぶり!四十九日が過ぎて落ち着きましたよ。よかったらうちに来てください!」

過去の私なら丁重にお断りしていたかもしれませんが、このときのご家族と私の繋がりは、同じ目標に向かい多くの時間を共有し気心のしれた『戦友』でした。これまでに感じたことがなかった、お互いを信頼しあえている妙な実感がありました。もちろん誘いを断る理由はありません。

「はい、是非行かせてください。」

 

ご家族のご好意で妻と子供たちも一緒に訪問させて頂きました。

話をしていると、その当時は気づけなかったことを、「実はあのとき家族はこう感じてた」「あのときはもっとこうして欲しかった」「看護師さんのあの言葉がうれしかった」などと教えてくれました。患者さんやご家族の貴重な療養経験から私たちが教わることはとても多いと感じます。

家族でお線香をあげて、仏前で一緒にご飯を食べ、お酒を交わし、療養中のときのようにみんなで何度も涙を流しながら故人を思う時間を過ごしました(なぜか診療とは関係ない妻も号泣していましたが)。

医師と患者は一定の距離を保たないといけないという意見もありますが、お互いが心地よい距離感で良いのだと思います。お互いを分かり合う過程が一番大切な事なのだと、今回教えてもらった気がします。

 

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気がつけばこどもたちは仏壇の前で寝てしまっていました。

きっと仏様も微笑んでくれてることでしょう。